イノベーションは、どこから生まれるのだろうか? 15年以上前にハーバード大のNarayanamurti教授が、サイエンスとテクノロジーが融合して、新しい化合物、材料、既知材料の新規構造、物性が出現してきたことを例示して、学際的(Interdisciplinary)研究の重要性を言及している。なお教授は、組織、研究室のトップが、学際的研究をしようというのは実際には進まないで、学生がラボに自由に出入りできるところから学際的研究が進むようなことを話されていました。彼の例示の中には生物関連のものはないがワトソン・クリックの2重らせんの発見から、現在では遺伝子組み換え植物やタンパク質の医薬等は、遺伝子組み換えで生産されるようになっている。IPS細胞等の再生治療の研究も盛んになってきている。 前号で言及したIoTやAIは、日本では、ここ3,4年に、急に話題になっていて、今年は猫も杓子もAIといっている。日本の特徴として多くの人が群がるところに行こうとする傾向が強いのではないだろうか?シュンペーターの新結合は、恐らく学際的研究から生まれると考えられるが、一次産業の農林水産業は、他の工業分野と比較して限られた企業しか、IoTやAIとの組合せを考えていないのではないだろうか?日本の食料自給率は、生産ベースで60%を超えているものの、カロリーベースでは40%以下であり、現在はいろいろな国から輸入ができるが、最近の世界の情勢を考えると食料の自給率は上げる努力をすべきではないかと思う。現に水産では温泉を利用した「ふぐ」や「すっぽん」等の養殖ができるし、砂漠地帯で植物工場を造っているところがある。日本の一次産業の養殖栽培技術は優れているように思う。 日本の大企業は、現在、又は近い将来の市場サイズが大きくないと研究開発を行わないが、一次産業への参入は、そう簡単ではないが、技術力を持っている大企業の積極的な参入はイノベーションへの一つの道ではないかと考える。 波瀾千丈

2017.2.4

 

 かなり以前から、ハーモナイゼーション、選択と集中、グローバリゼーション、リーダーシップ、ダイバーシティ等々外国で流行った言葉を出せば、経営者が喜ぶというか、安心するというかが時代により、変わってきている。今はイノベーションという言葉が、そのような流行言葉のようである。流行とは関係なく、それらについては常に考慮して実践している経営者は、いる。流行言葉を求める人は、自分が無能だといっているようなものではないだろうか?例えば、ダイバーシティは、イノベーションにとって、ある意味で必要だと思うが、日産のカルロス・ゴーンは多様性を抱えるだけでは十分ではなく、どうすればそれぞれの力を一つにまとめ、眠っているものを最大限に引き出すことができるかが重要であるといっている。経営者であろうがなかろうが、大事なことではないかと思う。

ドラッカーが1984年に「イノベーションと起業家精神」という本を書いて、1997年にはクリステンセンが「イノベーションのジレンマ」という本を書いて破壊的技術という言葉を用いた。私自身は破壊的技術の意味が必ずしも分かっていないが、携帯電話は、ずっと昔から小型化、高性能化を目指してきたが、いろいろなコンテンツを入れたスマホは、携帯電話の延長ではないし、40年くらい前のミニコンピュータより、小形で高性能である。人間社会にとって便利なものは、その分野の専門家が予測するより速い速度で進歩することは、確かなようである。インターネットや、遺伝子組み換えの技術等は、その例ではないかと思われる。

昨年の終わりごろから、IoTに引続き、AI(人工知能)のセミナー、シンポ等が盛んに開催されている。IoTAIの進歩により、社会的構造や産業構造が大きく変わろうとしている。従来は、技術進歩は、経済の良い効果をもたらすと考えられていたが、AIの発達により、労働問題まで大きく影響を与えることが予測されている。昨年、AlphaGo(アルファ碁)」と、韓国のプロ棋士イ・セドル氏が相まみえた五番勝負は、イ・セドル氏が第四局で一矢を報いたものの、41敗でAlphaGoの圧勝に終わった。囲碁については、まだまだ人間には勝てないだろうといわれていたので囲碁を知らなくても多くの人は、AIのこわさを感じ取ったと思われる。

 一方でガートナーの顧客には10個の誤解があるといっている(ネットでガートナー*人工知能で検索すれば見ることができる)。科学技術を正しく理解することが重要で、理解するためには勉強することが大事である。 IoTAI技術等の発達、進展、変遷が、人間社会にとって、より良くなるような貢献をすることを期待したい。                             波瀾千丈

 近年、IoT(internet of things)については、日本では2年前から急に話題になり、今年に入ってからは、猫も杓子もIoTで、テレビのコマーシャルにも出てきている。特にヘルスケア分野では、今後、健康寿命の延長や、在宅医療、遠隔医療、在宅介護等の問題解決にIoTとの融合で多くのイノベーションが期待されている。
 しかしながらヘルスケア分野では、分子・遺伝子レベル、細胞小器官レベル、細胞レベル、組織レベル、器官レベル、個体レベル、場合によっては集団レベルの研究がおこなわれているが、分子・遺伝子レベルの研究結果を個体レベルに適用できるかということはそう簡単には言えない。
 また生物には通常、個体差(バラツキ)が存在し、例えば、厚生労働省で製造承認されている医薬品の有効性は疾患の種類や医薬品の種類によっても異なるが、癌で20~30%程度、C型肝炎、骨粗鬆症、関節リウマチ、糖尿病等の医薬品で50%弱~60%程度である。有効性が低くてもよいというわけではなくいろいろな要因を含む個体差がこの程度ある。一方、俊敏性(agility)や精度が求められるIoTの分野と上記のように個体差を考慮しなければならない分野との融合はそう簡単ではなく、単なる思い付きではなく、それぞれの分野のサイエンスの基礎的相互理解(勉強)が必須である。

波瀾 千丈

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